福岡高等裁判所 昭和27年(ナ)12号 判決
原告 森重夫 外一三名
被告 福岡県選挙管理委員会
一、主 文
昭和二十六年四月二十三日執行の福岡市議会議員選挙に関する訴願について、昭和二十七年四月二日被告のなした裁決中「昭和二十六年五月二十一日福岡市選挙管理委員会が訴願人外十五名の異議申立に対してなした当選の効力に関する決定は取消す。右の選挙における当選人森重夫、笠富造、河崎精一、徳永賢三郎、日下部新吉、石田純一、山本与三郎、横竹正助、御田工、水江隆三、常岡卯兵衛、岩田重蔵、松永幸四郎、広田賛助の当選は無効とする」という部分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、
(一) 原告等は昭和二十六年四月二十三日執行の福岡市議会議員選挙に立候補して当選し、同月二十五日当選の告示がなされたのであるが、右選挙について選挙及び当選の効力に関し被告は昭和二十七年四月二日主文第一項掲記の事項を含む裁決(以下本件裁決という)をなし同月三日これを告示した。
(二) そもそも選挙管理委員会が選挙会の定めた当選人の当選を無効とすることができるのは、選挙人又は候補者から当選の効力に関し異議の申立があつた場合に限ることは公職選挙法第二〇六条の規定の趣旨に照して明であるところ、右本件選挙について当選の効力に関し適格ある申立人の異議申立がない。すなわち本件選挙について同法第二〇六条第一項の期間内に福岡市選挙管理委員会に申立てられた只一の異議は昭和二十六年五月六日に申立られたものであるが、その異議申立は該申立書の表題に示すとおり選挙の効力に関する異議申立であつて当選の効力に関する異議申立ではなく、又その申立人は福岡市政刷新会という政治団体であつて本件選挙の選挙人又は候補者でないことも明白である。そうして福岡市選挙管理委員会は同年五月二十一日右の異議を棄却する旨の決定(以下本件決定という)をしたが、該決定もその主文に示すとおり選挙の効力に関する決定であつて当選の効力に関する決定ではない。従つてその決定に対し当選の効力に関する訴願がなされても、もともと訴願の対象たる当選の効力に関する決定は存在しないのであるから、その訴願は何等の意味もないものといわなければならない。仮に百歩を譲つて本件決定が当選の効力に関する決定であるとしても、当選の効力に関する異議申立がないのであるから、右決定に対し訴願の申立があつても被告は当選を無効とする裁決をなすことはできないわけである。
(三) 本件決定に対し同年六月一日被告に訴願(以下本件訴願という)がなされているが、その訴願人が福岡市政刷新会であることは、その訴願書の記載に照して極めて明瞭であつて、かかる団体は訴願人たる適格を有しないから右訴願は不適法である。
(四) 本件訴願が選挙の効力に関する訴願であるか又は当選の効力に関する訴願であるかはその訴願書の記載によつても明瞭ではない。公職選挙法においては選挙の効力に関する異議、訴願、訴訟(同法第二〇二条乃至第二〇五条)と当選の効力に関する異議、訴願、訴訟(同法第二〇六条乃至第二〇八条)とを截然区別してこれを混同せしめないことは同法の右法条に照して明であつて、本件訴願のようにその何れであるかが明でない訴願は許されないものと解しなければならない。しかるに被告は本件裁決理由において、本件訴願は選挙の効力に関する訴願に当選の効力に関する訴願を予備的に併合したものと認定しているが、かような認定は本件訴願書の記載に徴して不可能である。仮に予備的併合と解しても、選挙の効力に関する訴願と手続及び性質を異にする当選の効力に関する訴願を予備的に申立てることは到底許されない。
(五) 被告は本件裁決において、本件選挙には潜在無効投票が二百四票あることを認定しているが、原告等はその事実を認めることはできない。なお今次の改正による公職選挙法第二〇九条の二の規定によれば、潜在無効投票がある場合には、同法第九五条の規定の適用に関し各候補者の得票数の計算については、開票区ごとに各候補者の得票数から潜在無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差引くことになつたので、仮に二百四票の潜在無効投票があつたとしても、右改正規定に従つて各候補者の得票数を計算すると原告等はなお当選人となることが明であつて、当選の効力に何等の影響もない。
(六) 以上の理由によつて被告のなした本件裁決中主文掲記の部分は不当であるから、これが取消を求めるため本訴に及んだものであると陳述した。(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」という判決を求め、答弁として、原告等主張の(一)の事実は認める。同(二)及び(三)の事実中それぞれ原告主張の日に本件異議申立及びこれに対する本件決定並に該決定に対する本件訴願の申立がなされたことは認めるが、本件異議及び訴願は実質的に選挙及び当選の効力に関して選挙人又は候補者からなされたものであるから本件裁決は適法である。同(四)の事実中被告が本件裁決において、本件訴願は選挙の効力に関する訴願に当選の効力に関する訴願を予備的に併合したものと解して裁決したことは認めるが、この解釈は相当であつてこれに反する原告等の見解には賛成することができない。同(五)の事実中被告が本件裁決において二百四票の潜在無効投票があることを認定したことは認めるが、このような無効投票のあつたことは明である。右二百四票の潜在無効投票を公職選挙法第二〇九条の二の改正規定に従つて開票区ごとに各候補者の得票数から按分して差引いても、原告等はなお当選人となり当選の結果に影響がないことは認めると陳述した。(立証省略)
三、理 由
原告等が昭和二十六年四月二十三日執行の本件選挙に立候補して当選し同月二十五日当選の告示がなされたこと、該選挙について同年五月六日福岡市選挙管理委員会に本件異議申立がなされ、これに対し同選挙管理委員会が同年五月二十一日異議を棄却する旨の本件決定をなしたこと、該決定に対し同年六月一日被告に本件訴願申立がなされ、これに対し被告が昭和二十七年四月二日主文第一項掲記の事件を含む本件裁決をなし同月三日その旨を告示したことは、いづれも当事者間に争のないところである。
そこで先づ本件裁決が適法の異議及び訴願に基くものであるか否かについて審按しなければならない。成立に争のない乙第一号証の本件異議申立書にはその頭書に「福岡市政刷新会」「委員代表前田幸作」と併記し、末尾に「異議申告人、福岡市政刷新会」「代表者、前田幸作」と併記し、更に委員として古川初雄外十四名の氏名を連記し、成立に争のない乙第三号証の一の本件訴願書にはその頭書に
「住所 福岡市南高宮町五五五番地
職業、会社員 福岡市政刷新会
異議申立人 代表者 前田幸作
明治二十八年四月二十八日生」
末尾に「訴願人、前田幸作」と記載し、成立に争のない乙第三号証の二及び三の各訴願の証拠追加書にはそれぞれその末尾に「福岡市政刷新会代表、前田幸作」と記載し、又成立に争のない乙第三号証の四の訴願書(最終追加分)にもその表紙に「福岡市政刷新会」「代表、前田幸作」と併記し、本文の末尾に「福岡市政刷新会代表、前田幸作」と併記している。そこで本件異議及び訴願の申立は果して福岡市政刷新会かそれとも同会の委員である前田幸作外十五名の個人か、もしくは前田幸作個人だけかという疑も生ずるわけであるが、福岡市政刷新会は団体であるから選挙人又は候補者たる資格がなく、従つて選挙又は当選の効力に関する異議又は訴願の申立人たる資格がないことは明であるし、前田幸作外十五名の者は全部がそうでないにしてもその大部分の者は本件選挙の選挙人又は候補者であることは本件口頭弁論の全趣旨に徴し明であるから、本件異議及び訴願の申立人は右刷新会ではなく右委員等個人だとみるのも一応の解釈であろう。しかし前記名称又は氏名の表示はその通常の用例からみて右刷新会を申立人として表示したものであつて前田幸作その他は刷新会を代表してその申立をしたものと認めるのが相当であるのみならず、証人原英二の証言並にこれによつて成立を認むべき甲第三及び第四号証成立に争のない甲第五号証によつて認められるように、本件異議及び訴願は市政刷新を目的として結成された福岡市政刷新会の決議に基くもので、同会においては会員中に訴願取下に反対するものが一名でもあれば取下をなさない旨の固い決議も行われ、同会名義の公開声明書中には訴願の取下をなされない旨を明記し且つ福岡市公報を以て告示された同会の収支報告書中には訴願料金八千円の支出記載があること等の事実と対照しても、本件異議及び訴願の申立人は福岡市政刷新会であつて前田幸作その他の個人ではないと認めるに充分である。他に該認定を覆すべき証拠はない。さすれば本件異議及び訴願の申立は法定の資格を有しないものによつてなされた不適法の申立であるからこれを却下しなければならないにかかわらず、福岡市選挙管理委員会及び被告がいづれもこれを看過し本案について本件決定又は本件裁決をなしたのは失当といわなければならない。
又前記乙第一号証、同第三号証の一乃至四並に成立に争のない乙第二号証によると、本件訴願は当選の効力に関してなされたものであるが、本件異議及びこれに対する本件決定はいづれも選挙の効力に関してなつれたものと認めるのが相当であつて、他に当選の効力に関し異議の手続を経由した事実を認むべき証拠はない。従つて仮に本件異議及び訴願が前田幸作その他の選挙人又は候補者の申立によるものだとしても、当選の効力に関する異議の手続を経由しないでなされた本件訴願は不適法であるからこれを却下しなければならないにかかわらず、被告がこれを却下しないで原告等の当選を無効とする旨の本件裁決をしたのはこれ亦失当といわなければならない。
そこで爾余の争点について判断するまでもなく当選の効力に関する本件裁決は失当としてこれを取消すべきものであるから、これが取消を求める原告等の本訴請求を正当と認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 中園原一)